マイコファジィ、世界を救う。


  • ブナシメジの栽培ポット。
    切り取られてパッケージされるまでオートメーションだ

  • 「えのき氷」の大ヒットを祝って、こんなしめ縄も作られた

きのこ栽培、産業となる

スーパーに並べられているエノキタケ、ブナシメジ、マイタケ、エリンギなどのパッケージを見ると「中野市」という表記が非常に多い。中野は、きのこの一大産地である。特にエノキタケは日本一の生産量を誇る。もともと、エノキタケは農閑期に現金収入を得るための副産物として栽培が始まった。伝統的にきのこを食べていた信越人にとっては、ごく自然の選択だ。エノキタケが農産物として認識されれば地域の救世主になる―そんな読みは当たった。
黎明期、先人は苦難を乗り越えてエノキタケの栽培を確立した。この影には、農業改良普及センターや農協の指導がある。そして、エノキタケをどう知らしめるかに腐心した。都市部の市場に初めて出したときは、「毒きのこを送るな」という苦情も来たそうだ。それまで人工的に栽培されるきのこはシイタケくらいしかなかったから、白くて細いきのこはとても食用として認識されなかった。それでも、飲食店へ「鍋」の食材として提供するなどして徐々に浸透させていった。
その伝統を受け継いだ前澤憲雄さんは、中野市の農協(JA)で普及活動の先頭に立っていた人だ。その後はブナシメジ、ヒラタケなどへと栽培品種を広げていく。「産業として育てていく意識を、JAと農家が共通して持つことができたのが大きい」と、前澤さんは分析する。前澤さんたちは、「もっときのこを」との思いで「信州きのこマイスター協会」を立ち上げた(現在は『日本きのこマイスター協会』)。入門・探究・専攻の3コースを作り、認定講座を開く。試験に合格すると「きのこマイスター」として食べ方の提案を行うことができる。全国から受講者が集まっている。そして、さらに大きな波が来た。
「きのこの効用」である。

人類の健康観を変える

「えのき氷」―2011年から12年にかけてテレビの情報番組で紹介され、大ブレイクした。エノキタケには「キノコキトサン」「β-グルカン」という物質が多く含まれている。これらが悪玉コレステロールを減らしたり抗ガン効果を発揮したりすることが、臨床実験によって証明された。エノキタケをペースト状にすることで、有効成分を効率よく摂取することができる。キューブ氷にして保存しておけば、毎日の料理に使うことも簡単だ。ちなみに、前澤さんは「えのき氷」の名付け親でもある。
「きのこが健康にいい働きをすることは、信越では経験的に知られてきました。医学的なお墨付きをもらうことによって、これを世界に伝えていきます」。漢方薬にも、きのこを利用したものが多い。食用と薬用の両側面できのこをアピールしていく。
きのこを積極的に食べることを、英語で「マイコファジィ=mycophage」と呼ぶ。日本語では「菌食」。これは、何も栽培きのこだけを指す言葉ではない。山で採れる自生きのこも、信越の実りを代表する産物だ。前澤さんは言う。「里山、深山を含め、山を整備していけばきのこの収穫量も増えます。自然が健やかでなければ、人の健康も守れないということですね」。「木の子」とも書くように、山の自然と共生しているのがきのこ。人間は、きのこを媒介にして自然とつながっている。
きのこマイスターは、いわばマイコファジィの伝道者だ。きのこによる新たな健康のモデルが、信越から発信され始めた。これが世界に広まったとき、人類の未来は変わるのかもしれない。


  • エノキタケを利用した製品たち。前澤さんはまだまだアイデアを持っていそうだ

  • 協会の情報誌「マイコファジスト」にはきら星のようなヒントが詰まっている

そのほかの達人達をみる

  • 郷土料理研究会会長 竹井孝子 野沢温泉村
  • 渋峠ホテル 児玉幹夫 山ノ内町
  • 竹内農園 竹内昭芳 木島平村
  • マタギ 福原和人 栄村
  • サンクゼール代表取締役 久世良三 飯綱町
  • 小林一茶、七代目子孫 小林重弥 信濃町
  • 人形作家 高橋まゆみ 飯山市
  • ネイチャーガイド 敷根俊一 妙高市
  • 日本きのこマイスター協会 前澤憲雄 中野市

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